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【パート・アルバイト vs 業務委託契約】有給休暇・社会保険対応と選択ガイド
2025/5/26
企業で人材を活用する際、「パート・アルバイトとして雇用する」か「業務委託契約で外部に委託する」かの選択は、人事担当者にとって重要な課題です。どちらを選ぶかで、適用される法律やコスト、働き方の柔軟性が大きく変わります。本ガイドでは、パート・アルバイト(以下「パート」)と業務委託契約(個人への外部委託)それぞれのメリット・デメリットを比較し、有給休暇や社会保険の取り扱い、そしてリスク回避のポイントについて、最新の法改正情報も踏まえて分かりやすく解説します。読者の皆様が自社の状況に応じた最適な雇用形態を判断できるよう、フローチャートやチェックリストも交え、実務に役立つ内容を網羅しました。ぜひ人材戦略の検討にお役立てください。
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- パート・アルバイトと業務委託契約の違いとは
- 最新の法改正・ガイドライン動向(2024年以降)
- パート・アルバイトとして雇用するメリット・デメリット
- 業務委託契約を活用するメリット・デメリット
- 有給休暇の制度・取得義務の対応ポイント
- 社会保険・労働保険の取り扱いとコスト比較
- 雇用形態選択の判断基準(フローチャート)
- リスク回避のための契約書チェックポイント
- おわりに
パート・アルバイトと業務委託契約の違いとは
まず、パートと業務委託契約の基本的な違いを押さえましょう。パートやアルバイトは会社と雇用契約を結んだ「労働者」であり、労働基準法や社会保険など労働関係法令の適用を受けます。一方、業務委託契約は会社と請負契約・委任契約を結んだ個人事業主という位置づけで、基本的に労働関係法令の適用対象外です。雇用契約では会社が労働時間や業務内容を指示できるのに対し、業務委託では成果物や業務範囲を取り決め、働き方は委託された個人の裁量に委ねられます。
労働基準法上の「労働者」に当たるかどうかは、契約書の名称ではなく実態で判断されます。契約上は業務委託でも、実態が指揮命令下での労働提供であれば労働者と認定され、労働法の保護が及びます。近年は働き方の多様化に伴い、この「労働者性」の判断が重要になっています。
契約形態による主な違い(概要比較)
以下にパートと業務委託の主な違いをまとめます。
項目 | パート・アルバイト(雇用契約) | 業務委託契約(請負・委任) |
法律上の立場 | 労働者(雇用関係あり) ※労働基準法・労働保険・社会保険適用 | 個人事業主(雇用関係なし) ※契約自由、市販契約書で締結 |
指揮命令 | 会社の指揮命令下で勤務(業務内容・時間・場所の指示あり) | 原則指揮命令なし(契約した業務を自己裁量で遂行) |
労働時間・場所 | 会社が所定労働時間・勤務地を指定(就業規則等が適用) | 業務の性質に応じて自由※契約で成果物の納期や稼働時間の合意は可 |
賃金・報酬 | 賃金(時給・月給など)として支払い。最低賃金や残業代規制あり | 報酬(請負料・委任料)として支払い。金額や支払い条件は契約で自由設定(最低賃金適用なし |
有給休暇 | 労基法により一定条件で付与義務あり | 法定の付与義務なし(契約上の休暇取り決めは自由) |
社会保険 | 条件満たせば厚生年金・健康保険に加入義務 雇用保険・労災保険も適用 | 社会保険加入義務なし(国民年金・国民健康保険に各自加入) 労災保険も適用外※一部職種は特別加入可 |
福利厚生 | 会社の就業規則により福利厚生利用可(正社員との均等待遇に留意) | 原則対象外(福利厚生は契約報酬に含める形) |
契約期間・終了 | 期間の定めありの場合、更新上限や5年で無期転換権発生 解雇には客観的合理性が必要(解雇権濫用法理) | 契約期間や終了条件は自由設定。原則契約期間満了で終了。途中解約条項により比較的柔軟に終了可能 |
雇用管理 | 勤怠管理・社会保険手続きなど会社側に管理責任あり | 勤怠管理不要(進捗管理のみ) 税務・保険も本人管理 |
人材の帰属意識 | 会社の一員として組織に貢献しやすい。定着すれば戦力化 | 独立した立場で複数企業と契約も可。帰属意識は弱いが専門性活用に◎ |
こうした違いを踏まえ、自社のニーズに合った契約形態を選ぶことが重要です。次章からは、最新の法改正や各形態のメリット・デメリット、有給休暇・社会保険の実務対応について詳しく見ていきましょう。
最新の法改正・ガイドライン動向(2024年以降)
2024年以降、パート・業務委託を取り巻く制度にいくつか重要な変更がありました。まずは人事担当者が押さえておくべき最新情報を解説します。
厚生年金・健康保険の適用拡大(社会保険適用拡大)
2024年10月から、従業員数51人以上の企業で働くパート・アルバイトも社会保険(厚生年金保険・健康保険)の被保険者対象に加わりました。これにより、中小企業でも一定規模以上なら週20時間以上・月収8.8万円以上の短時間労働者は社会保険加入が義務化されます。さらに「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件が撤廃され、2ヶ月超の見込みがあれば加入対象となっています(以前は大企業のみ段階的に撤廃されていましたが、現在は適用拡大先にも同様に適用)。要するに、短期間の非常勤アルバイトでも2ヶ月を超えて勤務見込みなら社会保険に加入する必要があるということです。また、2022年10月には従業員101人以上の企業、それ以前の2016年には501人以上の企業で適用拡大が実施されており、社会保険加入義務の対象企業規模が段階的に引き下げられてきました。パートを多く雇用する企業では、この適用拡大に伴う保険料負担増に留意が必要です。
フリーランス新法の制定とガイドライン改定
2024年11月1日、個人フリーランスとの取引適正化を目的とした「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(いわゆるフリーランス新法)が施行されました。これに伴い、厚生労働省・公正取引委員会などが策定していた「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」も2024年10月に改定されています。新法では、発注企業(特定業務委託事業者)に対し、契約内容を書面等で明示する義務や報酬の支払期日(検収後60日以内が目安)等の規定が設けられ、フリーランスへのハラスメント防止など就業環境の整備も求められました。つまり、業務委託契約であっても「契約書を交わさず口頭で済ませる」「報酬を長期間支払わない」といった行為は新法違反となる可能性があり、注意が必要です。厚労省ガイドライン改定では、新法の内容反映に加え、発注側企業が遵守すべき事項(契約書面の交付や適正な発注条件)や労働者性の判断基準に関する解説が追記されています。
労働者性の判断強化と相談窓口設置
フリーランス新法施行と並行して、「偽装請負(偽装フリーランス)」への対策も強化されています。厚生労働省は2024年10月、「自分の働き方が労働者に該当するか疑問があるフリーランス」のために、全国の労働基準監督署に相談窓口を開設しました。契約形態にかかわらず、労基署が相談者の働き方を丁寧にヒアリングし、労働者性の判断基準の説明や自己診断チェックリストの提供などを行う取り組みです。相談内容によっては労基法違反として調査し、必要に応じて是正指導・送検も行うとされています。また、厚労省は労働者性の判断に関する代表的裁判例集やチェックリストを公開し、企業側にも注意喚起をしています。このように、労働者性の判断基準が周知され、「契約の形式より実態重視」の姿勢が一層強まっています。
その他の法改正トピック
2023年4月から、中小企業でも月60時間超の時間外労働に割増賃金率50%が適用されるなど労働時間規制の強化がありました。また、近年施行されたパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)により、パートと正社員の不合理な待遇差は禁止されています。これらは直接パート vs 業務委託の選択とは異なりますが、パートとして雇用した場合の追加コスト要因(時間外割増、福利厚生の均等待遇対応等)として考慮すべきポイントです。
最新の法律・ガイドラインは以上のとおりです。次章から、これらを踏まえてパートと業務委託それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
パート・アルバイトとして雇用するメリット・デメリット
パートタイマーとして直接雇用する場合、会社にとってどんな利点・注意点があるでしょうか。以下に主なメリットとデメリットをまとめます。
メリット(パート雇用)
指揮命令が可能で柔軟な業務指示
社員と同様に勤務日やシフト、業務内容を細かく指示できます。業務の優先順位変更や緊急対応の指示もしやすく、組織の一員として柔軟に働いてもらえます。
社内ノウハウの蓄積・チームワーク
長期的に働いてもらえば社内業務に精通し、ノウハウが社内に蓄積します。正社員ほどではなくとも研修やOJTによるスキル向上も期待でき、チームの戦力として成長してもらえます。
人材の定着・貢献度向上
雇用契約下にあることで会社への帰属意識が芽生えやすく、愛社精神や責任感を持って働いてもらえる傾向があります。評価制度や昇給・正社員登用制度などを用意すれば、モチベーション向上や長期定着も期待できます。
労働法上の管理下で安心
就業中のケガは労災保険が適用されますし、失業時は雇用保険給付が受けられるなど労働者保護制度が整っています。企業にとっても、これら公的制度を通じて従業員を支えることができ、トラブル発生時に制度を利用しやすいという側面があります。例えば仕事中の事故でも労災保険で補償されるため、従業員から民事訴訟を起こされるリスクを減らせます。
デメリット(パート雇用)
法定福利費や手続き負担が発生
パートであっても一定条件下では社会保険への加入が必要となり、会社は健康保険・厚生年金保険料の半額を負担します(保険料負担増)。また雇用保険料の事業主負担や労災保険料も発生します。さらに、入退社のたびに社会保険・雇用保険の資格取得喪失手続きを行う手間もかかります。
労務管理コスト(有給休暇・残業代等)
労働基準法上、勤務開始6ヶ月で年次有給休暇を付与する義務が生じます。パートにも所定労働日数に応じた日数を付与し、取得希望があれば認めなければなりません。さらに、所定労働時間を超えれば時間外割増賃金の支払いが必要で、深夜・休日勤務には割増率もアップします。こうした法定の休暇管理や残業代計算など、労務管理のコスト・手間が発生します。
解雇や配置転換の制約
雇用契約である以上、簡単に契約終了(解雇)できません。業績悪化で人員整理したい場合も、整理解雇の要件を満たす必要がありハードルが高いです。また業務内容を変更したり配置転換したりする場合も、無制限にはできず就業規則や労契法の範囲内で行う必要があります。柔軟に契約関係を終了・変更しづらい点は企業側のリスクと言えます。
待遇差調整義務
前述の同一労働同一賃金の観点から、パートだからといって不合理に低い待遇にすることはできません。正社員との職務内容の差に応じた適切な待遇差を説明できないと、将来的に訴訟リスクもあります。たとえば通勤手当や福利厚生の利用制限、賞与・退職金の有無などについて、パートだから一律ゼロとするのは難しくなっています。不合理な格差と認定されれば是正勧告や損害賠償請求を受ける可能性があります。
以上のように、パート雇用は会社のコントロールが利く反面、法定コストや管理責任も伴うことが分かります。
業務委託契約を活用するメリット・デメリット
次に、業務委託契約(フリーランス契約)を結ぶ場合の利点・注意点を整理します。企業側から見ると、業務委託は労務管理コストの削減等のメリットがある一方、適切に扱わないと法的リスクを伴います。
メリット(業務委託契約)
社会保険料負担が不要
業務委託契約の相手方は労働者ではないため、厚生年金・健康保険・雇用保険の加入義務がありません。企業側は労働保険料や社会保険料の負担が生じないため、人件費を抑制できます。報酬額次第ではありますが、一般に同じ支払い額でもパート雇用より企業負担総額は低く抑えられる傾向があります。
柔軟な契約期間・終了条件
必要な期間・内容だけを契約で定め、プロジェクト終了時に契約終了することが容易です。更新しない自由もあり、人員入れ替えの柔軟性が高いです。解約も契約書の定めに従って行えば良く、雇用のような解雇制限のリスクが低いです。短期のスポット業務や、一定期間だけ専門スキルを借りたい場合に適しています。
専門スキルの活用
フリーランス契約では、高度な専門スキルを持つ人材にプロジェクト単位で協力してもらえるケースが多いです。自社にはないノウハウを活用でき、新規事業や専門領域の業務を効率的に進められます。しかも仕事の進め方は相手に任せられるため、管理コストを削減しつつ成果を期待できます。
労務管理からの解放
勤怠管理や有給休暇管理、残業の有無など、細かな労務管理が不要になります。発注者は出来上がった成果物や達成した業務量に対して報酬を支払えば良く、マイクロマネジメントから解放されます。煩雑な就業規則適用や人事評価とも無縁なので、管理部門の負担軽減につながります。
デメリット(業務委託契約)
労働者性の認定リスク(偽装請負の法的リスク)
最大の注意点は、実態が「労働者のような働き方」になってしまうことです。業務委託のフリーランスが実質的に社員同様の指揮命令下で働いていると判断されれば、未払残業代の請求や労災認定等のリスクが一気に発生します。例えば委託ドライバーが長時間の指示通り勤務を強いられていた場合、後から「実は雇用契約だった」と認定され未払い残業代や労働保険の遡及適用を求められた例があります。また業務中の事故で安全配慮義務違反を問われ、損害賠償責任を負わされたケースも報告されています。このように、労働者とみなされることで様々な法的リスク(割増賃金、労災補償、解雇制限、労組対応など)を企業が負う可能性があります。
契約不履行時のトラブル対応
委託契約では成果物の品質や納期遅延などのトラブルが生じることもあります。その場合、基本は契約上の責任追及になりますが、相手が個人事業主だと資力が乏しく賠償を十分に得られないリスクもあります。逆に企業側が一方的に途中解約した場合、契約不履行として損害賠償請求される恐れもあります。雇用関係と異なり労働法の「即時解雇権制限」のようなルールはありませんが、その代わりに民事上の契約責任をお互い負う点に注意が必要です。
秘密情報・競業の管理
フリーランスは複数企業と取引できます。自社の機密情報を扱う業務を委託する際は、情報漏えいや競合他社への転用リスクがあります。契約時に秘密保持契約(NDA)や競業避止条項を結ぶことはできますが、強制力・実効性には限界があります。雇用契約の従業員のように包括的に会社ルールで縛ることは難しいため、扱わせる情報の範囲や信頼できる人材かの見極めが重要です。
組織力・継続性の不足
業務委託の人材は「外部協力者」であり、組織内での役割は限定的です。長期的なキャリア形成やチームビルディングの観点では限界があります。プロジェクト終了後は関係解消となるため、せっかく育んだノウハウやスキルが社内に残らないこともあります。継続して依頼したい場合でも、そのフリーランスが他社案件で手一杯になれば継続契約できず、新たな人探しが発生するリスクもあります。
以上が業務委託契約の主なメリット・デメリットです。総じてコストメリットと柔軟性がある一方、法的リスクと組織活用の難しさが挙げられます。次章では、有給休暇と社会保険の取り扱いに着目して、両者の違いを見てみましょう。
有給休暇の制度・取得義務の対応ポイント
年次有給休暇(年休)の扱いは、雇用契約の有無で大きく異なります。ここではパート社員の有給休暇ルールと、その取得義務・リスクについて整理します。
パートも有給休暇取得可能・付与義務あり
労働基準法第39条に基づき、パートタイマーやアルバイトであっても「雇い入れから6ヶ月経過し、全労働日の8割以上出勤」という条件を満たせば、有給休暇が発生します。付与日数は所定労働日数に応じて定められており、例えば週5日勤務のパート社員なら6ヶ月後に10日の年休が付与されます。週3日勤務など日数が少ない場合は、法律で定められた比例付与のルールに従い、付与日数が少なくなります(例:週3日勤務だと6ヶ月経過で年5日付与)。いずれにせよ、「パートだから有給休暇がない」は誤りで、条件を満たすパート・アルバイト全員に付与が義務付けられています。これは会社規模や雇用形態に関係なく一律のルールです。
有給取得の時季指定義務(5日ルール)
2019年の法改正により、有給休暇が年10日以上付与される従業員には、毎年5日について確実に取得させることが会社の義務となりました。対象となるパート社員がいれば、本人の希望を聞いた上で計画的に5日を消化させる必要があります。違反すると労基法39条違反となり、対象社員1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。実際に2021年には、この義務を怠った企業が書類送検されています。特に繁忙などを理由に年休を全く取得させないような職場はリスクが高く、労基署から是正勧告や企業名公表、さらには悪質な場合は刑事処分(送検)につながり得ます。人事担当者は年休管理簿を整備し、付与から1年以内に5日取得できていない社員がいないか毎年チェックすることが大切です。
未取得時の対応策
年5日の取得義務については、社員が自ら希望しない場合でも会社が「いつ取得するか」を指定しなければなりません。例えばパート社員が遠慮して有休を申請しない場合でも、年度の後半になったら「○月○日に年休を取得してください」と会社側から働きかける必要があります。また、長期間勤続のパートで有休が大量に溜まっているケースでは、5日取得させてもまだ残ることがあります。その場合、計画年休制度(計画付与)を導入して会社主導で計画的に消化する取り組みも有効です。取得させなかった場合の罰則は前述のとおり厳しいので、確実に履行しましょう。
業務委託契約の場合
フリーランスには法定の有給休暇制度がありません。契約上は納期や成果物の提出期限があるのみで、途中で何日休もうが本来は自由です。ただし、実務上は「○月○日は対応不可」など調整しながら進めることになるでしょう。会社側が業務委託に対し有給休暇を与える義務はありません。仮に契約期間中に休業日を設定する場合は、契約で報酬減額など取り決めをしておく必要があります。なお、注意すべきは業務委託に有休相当の休みを与えないこと自体ではなく、実態として休めないほど拘束していないかという点です。自由に休めるはずのフリーランスを毎日フルタイムで働かせ休みも事実上許さないようだと、実質は社員と変わらないと判断される恐れがあります。その意味で、「休むのは本人の自由」という建前と実態が乖離しないよう、発注側は配慮が必要です。
社会保険・労働保険の取り扱いとコスト比較
次に、社会保険(厚生年金・健康保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)について、パート雇用と業務委託での扱いを確認します。これはコスト面・制度面で非常に大きな違いとなります。
パートの社会保険加入条件
冒頭で触れたとおり、2024年10月からは従業員規模51人以上の会社では、週20時間以上・月額賃金8.8万円以上・2ヶ月超勤務見込み・学生以外という条件を満たすパート・アルバイトは厚生年金保険・健康保険の被保険者としなければなりません。例えば週4日5時間勤務で月収9万円の主婦パートさんでも、51人規模の会社なら社保加入となります。従来は「1年以上の雇用見込み」要件があり短期バイトは除外されていましたが、現在は2ヶ月超に短縮されています。一方、従業員50人以下の会社は適用拡大の義務はありません(任意特例あり)が、週30時間以上働くパートは従来通り規模に関係なく社保適用となる点に注意してください。会社負担としては厚生年金保険料(報酬月額の約9%)と健康保険料(同約5%、協会けんぽの場合は事業所平均標準料率)を負担します。また40歳以上なら介護保険料の事業主負担もあります。これらはフルタイム社員と同率です。パートが社保加入すると将来受け取る年金が増え医療給付も手厚くなるメリットがありますが、同時に本人の手取り賃金が保険料分減るため、働く側が希望しないケースもあり得ます。しかし適用要件を満たせば強制加入が原則で、会社・本人の合意で外すことはできないので注意しましょう。
パートの雇用保険・労災保険
パート・アルバイトであっても、週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば雇用保険に加入させる義務があります(昼間学生を除く)。多くのパートさんはこれに該当するため、雇用開始時にハローワークで加入手続きが必要です。会社は毎月の給与から労働者負担分の雇用保険料を天引きし、事業主負担分と合わせて納付します(令和5年度は労働者0.6%、事業主0.95%の計1.55%(一般の事業)など)。労災保険は労働者を一人でも雇えば全員強制適用です。パートも初日から労災保険の対象となり、保険料は全額会社負担で納めます。結果として、パート一人当たりにかかる法定福利費は、社保加入なら賃金の15%以上(社保+雇用+労災)にのぼる計算です。社保非加入の短時間パートでも、雇用保険・労災の負担は発生します。
業務委託の社会保険・労働保険
業務委託契約の相手は雇用関係がないため、上記いずれの保険も会社として加入させる必要はありません。 厚生年金・健康保険については、フリーランス本人が国民年金・国民健康保険に加入します(会社負担なし)。雇用保険は適用なし、労災保険も原則適用外です。ただし労災については、一人親方やフリーランス向けの特別加入制度があり、業務内容によっては団体経由で労災に任意加入している方もいます。いずれにせよ会社は関与しません。したがって企業側から見ると、業務委託契約には保険料コストが一切発生しないというメリットがあります。例えば月20万円の報酬を支払う契約でも、そのまま20万円で済み、パート社員に月20万円(残業代等除く)払う場合と比べ社会保険料約3万円の事業主負担が浮く計算になります。
扶養や税制の考慮
パートを希望する人の中には、「配偶者の扶養範囲内で働きたい(社会保険扶養や税扶養)」という方も多くいます。年収130万円未満であれば配偶者の健康保険扶養に入れる、年収103万円以下なら所得税非課税、といった基準です。このため週20時間未満・月収約88,000円未満に抑えたいという希望がある場合、社保適用拡大を踏まえてシフト調整する配慮も必要でしょう。一方、業務委託契約では報酬額=事業所得となり、自身で納税する必要があります。扶養の範囲を超えて働くかどうかは本人の判断ですが、人事担当者としてパート希望者との面談でこうした年収条件の希望を聞き、無理に社保対象にならないよう配慮するケースもあります。
まとめ
パート雇用では企業負担の社会保険料・労働保険料が発生し、各種加入手続きや管理も必要です。一方、業務委託契約ではそれらが不要でコスト的なメリットがあります。ただし、業務委託の方が保険に未加入ゆえにケガや病気時の保障が手薄になる側面もあり、万一トラブルになると「本当は雇用だった」と主張される温床ともなりかねません。社保逃れ目的で形式だけ業務委託にするのは厳禁であり、後述の労働者性チェックポイントを踏まえて適正な使い分けをすることが肝心です。
雇用形態選択の判断基準(フローチャート)
「パートとして雇用」か「業務委託契約にする」か迷ったとき、以下のポイントを順に検討すると判断しやすくなります。簡単なフローチャート形式で考えてみましょう。
業務内容と指示命令
その人に担ってもらう予定の仕事は、社内業務の一部であり上司の具体的な指示の下で行う必要があるでしょうか?もしYES(具体的な指揮命令が必要)なら、その人は労働者として働いてもらう方が自然です⇒ パート雇用が適切です。逆に「自分の裁量で進めてもらえればよい」ような仕事であれば次の質問へ。
勤務時間・場所の拘束
その仕事は決められた勤務時間帯や会社指定の場所で行ってもらう必要がありますか?
YES(時間・場所を会社が指定)なら、雇用契約とするのが安全です。
⇒ パート雇用が適切。NOで、自宅作業や好きな時間で構わないといった場合は次の質問へ。
業務範囲・期間
依頼しようとする業務はプロジェクト単位の完結的な仕事でしょうか?また依頼期間は明確に限定できますか?
もしYES(短期または成果物ベースの仕事)なら
⇒ 業務委託契約が選択肢になります。専門的スキルを活かした一時的な協力を得たい場合などはこれに当たります。
NO(継続的・恒常的な業務を担当してもらう)なら
⇒ パート雇用の方が望ましいです。恒常業務なのに契約社員等ではなく業務委託にすると、後々労働者性を問われる可能性が高まります。
以上を簡潔にまとめると次のようになります。
- 社内の一員として勤務させたい(指示命令・勤務管理したい)→ パート・アルバイトとして雇用
- 独立した立場の専門家に成果物作成等を頼みたい(働き方はお任せ)→ 業務委託契約
もし判断に迷う場合、「その人が社員同様の扱いになりそうか?」を想像してみてください。少しでも社員に近い管理をしそうなら雇用契約にしておくのが無難です。「とりあえず業務委託にして様子を見る」はリスクがあるため避けましょう。なお、業務委託に適したケースでもできるだけ契約期間を区切る、契約更新は形式上でも空白期間を設けるなど、長期の連続委託になりすぎない工夫もリスク低減になります。
リスク回避のための契約書チェックポイント
業務委託契約を締結する際は、「実態が雇用に近くならない」よう契約内容や運用を工夫することが重要です。以下に契約書作成および実務上のチェックポイントを挙げます。
契約書の明確化
委託内容・範囲をできるだけ具体的に明記しましょう。「○○業務の△△作業一式を委託する」「納期は○年○月○日」「報酬はいくらで支払時期は○月末」等、曖昧な表現を避けます。契約の種類も請負型(成果物納品)か委任型(作業遂行)かを明示し、それに応じた条項(検収や瑕疵対応の有無など)を定めます。契約書ひな形を使う場合も、自社の発注内容に合わせてカスタマイズしましょう。
労働者的な文言を排除
契約書中に「勤務時間」「時間外労働」「休日」「指揮命令」といった労務管理上の用語は極力使用しません。例えば勤務時間については「○時〜○時に業務対応いただくことがあります」程度の緩やかな表現に留め、就業規則の適用除外も明記します。「○○部長の指示に従うこと」などと書くのは厳禁です(書かなくても実態で指示出ししすぎれば問題ですが、契約上も明確に独立性を示すことが大事です)。
業務遂行方法の自由
「業務の進め方は受託者の裁量に委ねる」旨を契約書に記載しましょう。具体的な手順・マニュアルがある場合でも、それは参考提供とし、最終的な手段は本人に任せる建前にします。また、可能であれば再委託の可否も定めます。再委託(外注)が許される契約であれば、その人が必ずしも自分の労務を提供する義務を負わないため、労働者性を否定する材料になります。ただし情報漏えいなどの懸念がある場合は再委託禁止にすることも多いので、その場合は他の要素で独立性を担保しましょう。
報酬の定め方
時間給ではなく、できれば「成果物○単位あたり○円」「月額固定報酬○円(業務量◯◯込み)」など、出来高やプロジェクト単位の報酬設計にします。単に「週5日フルタイム相当で月○万円」だと実質月給制と変わらず、労働者性を疑われます。難しい場合でも時給ではなく日給や月額とし、時間ではなく成果や役務の対価であることを強調しましょう。
経費負担・機材
可能な限り業務に必要な機材や資材は受託者本人が用意する形にします。会社がPCや制服を貸与すると社員と区別が付きにくくなるため、必要に応じ手当相当額を報酬に上乗せしてでも自前で用意してもらう方が望ましいです。やむを得ず会社支給する場合、契約書に「備品は便宜供与であり雇用関係を意味しない」旨を記載することも検討しましょう。また、交通費や通信費など経費精算が必要な場合は、契約書で「報酬に含む」「実費を〇円まで支給」など取り決めを明示します。ここを曖昧にすると後日「出社を義務付けられたのに交通費が自腹だった」等の不満やトラブルにつながります。
秘密保持と競業避止
業務委託契約書に秘密保持義務条項を入れるのは必須です。顧客情報や社内資料に触れる場合、「業務上知り得た秘密を第三者に漏らさない」義務を課します。また必要に応じ競業避止を定め、契約期間中は競合案件を扱わないこと、終了後一定期間は当社の取引先と直接契約しないこと等を約束させます。ただし競業避止は本人の営業の自由を制限しすぎない範囲で設定し、不当に広範囲・長期間にしないよう注意します。
実務上の配慮
契約書面だけで安心せず、日々の接し方にも注意しましょう。例えば、社員と全く同じタイムカードを押させる・朝礼に毎日参加させる・上下関係を課す、といった扱いは極力避けます。業務上必要な打ち合わせはしても、休憩時間や休日の取り方に口を出し過ぎないことが大切です。また、名刺の肩書きを「○○部・担当」と社員同様にするのではなく「○○会社・業務委託先」等とする、公用メールアドレスを社員と分ける等、外形上も社内従業員と区別する工夫が有効です。細かなことですが、後で労働者性を争われた際には「○○さんは従業員と明確に区別されていた」という証跡になります。
以上のチェックポイントを踏まえれば、業務委託契約を結ぶ際のリスクをかなり軽減できます。それでも完全にリスクがゼロになるわけではなく、最終的には実態で判断されることを忘れないでください。契約期間中も定期的に「この扱いで問題ないか?」を見直し、不安な場合は専門家(社会保険労務士や弁護士)に相談することをおすすめします。
おわりに
パート・アルバイトと業務委託契約、それぞれの特徴や最新トピックを網羅的に解説してきました。総括すると、「どちらが有利か」一概に言えず、業務内容や期間、人件費予算、求めるスキルや責任範囲によって最適解は異なるでしょう。コスト面では業務委託が有利でも、長期的な戦力化やノウハウ蓄積にはパート雇用が適している場合もあります。人事担当者としては、法令遵守は大前提としつつ、自社の状況に合わせた人材活用策を柔軟に検討することが大切です。
最後に、判断に迷った際のキーワードは「実態」と「公平」です。実態として社員同然に働く人は正しく雇用し、公平に待遇する。一方、独立事業主に任せる仕事は契約のケジメをつけ、公正な取引条件で委託する。この基本を踏み外さなければ、大きなリスクは避けられるはずです。本ガイドが皆様の実務のお役に立てば幸いです。
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