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残業代計算の方法を解説!法定内残業と法定外残業の違いや、アルバイト・パートやフレックスタイムの場合も網羅

2025/5/26
残業代計算の方法を解説!法定内残業と法定外残業の違いや、アルバイト・パートやフレックスタイムの場合も網羅

経理や労務担当者、経営者の方に向けて、残業代の正しい計算方法を分かりやすく解説します。法律や労働基準監督署の指針に基づいた正確な情報をもとに、法定内残業と法定外残業の違いから、アルバイト・パートタイムやフレックスタイム制の場合の計算方法まで網羅します。読みやすい文体で具体例を交えていますので、日々の残業代計算や労務管理の実務にぜひお役立てください。

目次閉じる

残業代の基本:法定労働時間と所定労働時間の違い

法定労働時間とは何か

「法定労働時間」とは、労働基準法で定められた労働時間の上限のことです。日本では原則として1日8時間、週40時間までが法定労働時間と規定されています(労基法32条)。これを超えて労働させる場合は時間外労働(残業)となり、通常とは異なる扱いが必要になります。

なお、一部の事業所(例えば従業員が少ない小売業・旅館業など)では週44時間までの例外が認められていますが、基本は週40時間が上限です。また、労働基準法では少なくとも毎週1回の休日(または4週で4日以上の休日)を与えることも義務付けられています。

所定労働時間とは何か

一方、所定労働時間とは各企業や事業所が就業規則や労働契約で定めた社員の1日の勤務時間のことです。例えば「9時~18時(うち休憩1時間)」なら所定労働時間は実働8時間、「9時~17時(休憩1時間)」なら実働7時間が所定労働時間となります。所定労働時間は企業ごとに異なり、労使の合意によって法定労働時間内で自由に設定できます(法定を超える設定は不可)。

法定労働時間と所定労働時間の違いは、「法律上の上限時間」か「会社が定めた勤務時間」かという点です。例えば所定労働時間が7時間の会社では、8時間目の労働は法定労働時間内に収まるため法定内残業となりますが、所定が8時間の会社で8時間を超えて働くとその超過分は直ちに法定外残業になります。

ポイント

所定労働時間7時間の社員が2時間残業した場合、最初の1時間は法定内(合計8時間まで)で法定内残業、2時間目は1日8時間の壁を超えるので法定外残業になります。一方、所定労働時間が8時間の社員が1時間残業すると合計9時間労働となり、これら9時間目は全て法定労働時間を超えているので法定外残業です。

法定内残業と法定外残業の違いと計算方法

法定内残業とは(割増賃金不要の残業)

法定内残業とは、その名の通り法定労働時間内に収まっている残業のことです。つまり、会社の所定労働時間はオーバーしているものの、1日8時間・週40時間の法定上限を超えていない時間外労働が法定内残業にあたります。法定内残業は法律上は「時間外労働」には該当しないため、割増賃金(残業代の割増分)を支払う義務はありません。また、後述する36協定(時間外労働に関する労使協定)の締結・届出も不要です。

ただし法定内とはいえ労働時間であることに変わりはないため、働いた時間分の賃金は支払う必要があります(割増がない通常賃金100%相当分)。具体的には、例えば所定労働時間が6時間のパート従業員が7時間働いた場合、その1時間分は通常の時給で支払う必要があります(この1時間は法定内残業なので割増なし)。会社の就業規則で独自に「所定時間を超えた労働には割増〇%支給」など定めている場合は、その社内ルールに従った残業手当を支払います。

法定外残業とは(割増賃金が必要な残業)

法定外残業とは、法定労働時間の枠を超えて行われる残業のことです。1日8時間・週40時間という法定上限を超過した労働は、労働基準法上すべて「時間外労働」とみなされます。法定外残業に対しては割増賃金の支払いが義務付けられており、通常の賃金に一定の割増率を掛けた残業代を支払わなければなりません(詳細は後述)。また36協定の締結・労基署への届出も必須となります。

ポイント

所定8時間の正社員が1時間残業して9時間働いた場合、この1時間は法定外残業となり残業代に25%以上の割増が必要です。また前述のように所定7時間の社員が2時間残業したケースでは、2時間目(通算9時間目)が法定外残業となり、その1時間に対して割増賃金を支払います。

注意点

法定外残業をさせる場合、あらかじめ労使で36協定(サブロク協定)**を締結し所轄の労働基準監督署に届出をしなければなりません。36協定なしに法定外残業をさせることは違法であり、会社は罰則の対象となります(緊急やむを得ない場合を除き、従業員に時間外労働を命令できません)。実務では大半の企業が36協定を締結していますが、協定で定めた範囲を超える残業も違法となるため注意が必要です(詳しくは「7. 36協定と残業時間の上限規制」で解説します)。

残業代の計算方法:基本給・手当・割増率の考え方

残業代の基本計算式と割増率の種類

残業代の基本的な算出式は以下のとおりです。

  • 残業代 = 1時間あたりの賃金(時間給) × 割増率 × 残業時間

残業代を正しく計算するには、(1)まず1時間あたりの賃金額(基礎賃金)を求め、(2)その時間単価に割増率を掛けて算出します。さらにそれを残業した時間数だけ支払う形です。割増率は残業の種類によって異なるので注意しましょう。

主な割増率(割増賃金率)の種類

  • 時間外労働(法定労働時間を超える残業)…25%増以上
  • 深夜労働(22時~翌5時の間の労働)…25%増以上
  • 休日労働(法定休日の労働)…35%増以上
  • 月60時間超の時間外労働(時間外労働が月60時間超部分)…50%増以上

例えば、法定時間外の残業1時間には通常賃金の1.25倍以上の支払いが必要です。深夜時間帯の労働にはそれとは別に1.25倍以上の支払いが必要です。そのため、もし法定外残業が22時以降の深夜に及んだ場合は25%(時間外)+25%(深夜)=合計50%以上の割増率となります。同様に、法定休日の深夜労働では35%+25%=60%以上の割増率が適用されます。このように割増賃金は重複して発生しうる点も押さえておきましょう。

ポイント

時給1,600円の社員が22時以降に法定外残業を1時間行った場合、割増50%で計算し残業代は1時間あたり2,400円になります(通常時給1,600円+時間外手当400円+深夜手当400円)。法定内残業の場合は割増率0%(1.00倍)なので通常時給のまま支給されます。

1時間あたりの基礎賃金の求め方(基本給と手当の扱い)

次に、残業代計算の土台となる時間単価(1時間あたりの賃金額)の算出方法を確認しましょう。

月給制社員の場合、時間単価は「月給(基本給+所定の諸手当)÷ 月平均所定労働時間」で計算しますす。労基法の定める計算方法では、月によって所定労働時間が異なる場合は年間の所定労働時間を12で割った平均時間で割るとされています。一般的な計算例として、年間休日120日・1日8時間労働のケースでは月平均所定労働時間約163~173時間程度となります(暦により変動)。

ちょっと教えて

例:時間単価の計算 – 基本給25万円+職務手当3万円=計28万円の社員(年間所定労働時間2080時間≒月173.3時間)の場合
: 時間単価=280,000円 ÷ 173.3時間 ≒ 1,615円(1円未満切り捨て)
この1時間あたり1,615円を基礎に、割増率を掛けて残業代を計算します。

残業代に含めるべき賃金・手当

残業代の「基礎賃金」に含めるべき手当と、除外できる手当を理解しておくことも重要です。労働基準法37条では、次のような個人的事情に基づく手当等は残業代計算の基礎から除外できると定めています。

残業代計算の基礎に含めない(除外できる)主な手当

①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金(例:結婚祝い金など一時金)、⑦1ヶ月超の期間ごとに支払われる賃金(例:四半期ごとの業績手当)

上記以外の賃金・手当は原則すべて基礎賃金に含める

基本給はもちろん、役職手当・職能手当・精勤手当など労働の対価と考えられる手当はすべて時間単価計算に含めます。名称が「◯◯手当」であっても、実態として全員一律支給される手当(例えば独身者にも一律支給される家族手当など)は除外が認められません。

ポイント

自社の賃金体系でどの手当が残業単価算定に入るか曖昧な場合は、社労士や労基署等に確認しましょう。誤って除外して計算していると未払い残業代の原因になり得ます。

残業代計算時の注意事項(端数処理・計算単位など)

残業代は原則として1分単位まで正確に計算する必要があります。労働基準法24条では「賃金はその全額を支払わなければならない」と定められており、たとえ数分でも切り捨てて未払いにすることは違法となります。実務上は、例えば残業時間の合計に30分未満の端数がある場合切り捨て、30分以上は切り上げるといった端数処理は認められていますが、常に切り捨てる運用は違法です。毎日15分ずつのサービス残業を見逃す、といったことは絶対に避けましょう。

ワンポイント!

タイムカードや勤怠システム上の集計で15分単位や30分単位の丸め処理をしている企業もありますが、結果として1分でも賃金未払いが生じれば違法です。適切な運用では「1ヶ月の総残業時間について30分未満切り捨て・30分以上切り上げ」のように、過不足が出にくい方法が推奨されます。それでも未払いが出る場合には是正が必要です。

勤務形態別の残業代計算:正社員・アルバイト・パート

結論から言えば、残業代の計算方法や割増率は正社員であろうとパート・アルバイトであろうと労働基準法の下で共通です。雇用形態によって「残業代が出ない」「割増率が違う」といったことはありません。以下では、正社員(一般的に月給制)とパートタイマー・アルバイト(時給制が多い)それぞれで、残業代計算時に押さえておきたいポイントを解説します。

正社員(フルタイム月給制)の場合

正社員の場合、基本給に各種手当を含む月給制で給与が支払われるのが一般的です。この場合の残業代計算は前章で説明したとおり、まず月給から時間単価を算出し、それに割増率を乗じて残業代を計算します。たとえば月給制社員Aさん(所定労働8時間)が1日1時間残業して9時間働いた場合、その1時間は法定外残業となり割増25%の残業代を支給しなければなりません。仮にAさんの1時間当たり賃金が1,800円であれば、その残業1時間分の残業代は1,800円×1.25=2,250円となります。

計算例:正社員の残業代(月給制)

  • 基本給+諸手当の月額:30万円(1日8時間・週40時間の所定労働制)
  • 月平均所定労働時間:約168時間(年間2080時間÷12ヶ月として算出)
  • 時間単価:300,000円÷168時間=1,785円/時間(概算)
  • 1時間残業(法定外残業25%割増)の残業代:1,785円×1.25=2,231円

正社員の場合、役職手当や技能手当など各種手当がつくことも多いため、「どの手当を残業単価の計算に含めるか」がポイントになります。前述のように家族手当や通勤手当など一部を除き大半の手当は残業代の計算基礎に含める必要があります。見落としがないよう給与内訳を確認しましょう。

また、正社員は固定残業代制(みなし残業代制)を導入している場合もあります。固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を月給に含めて支給する制度です。この制度自体は適法ですが、就業契約書等で明確に残業◯時間分・◯円を含むと定め、実際の残業時間がその枠を超えた場合は超過分を追加支給しなければなりません。固定残業代制の詳細と注意点は後述のFAQでも触れます。

パート・アルバイト(時給制)の場合

パートタイマー・アルバイトの残業代計算も基本は同じですが、多くの場合時給制であるため計算がシンプルです。あらかじめ1時間あたりの賃金額が決まっているため、その時給に割増率を掛けて残業代を算出します。割増率や法定労働時間の考え方は正社員と変わりません。

ただしパート・アルバイトは所定労働時間がフルタイムより短いケースが多いため、法定内残業が発生しやすい点に留意しましょう。たとえば所定労働時間が1日6時間のアルバイトスタッフがある日8時間働いた場合、6~8時間目の2時間は会社の所定を超えていますが法定労働時間内です。この2時間は法定内残業となり、割増賃金は不要で通常の時給分を支払えばよいことになります。一方、仮に9時間働けば6~8時間目が法定内残業、8~9時間目(通算9時間目)が法定外残業です。法定外となる8時間超の部分については25%の割増賃金が必要になります。

計算例:パートの残業代(時給制)

  • 時給1,000円のパート従業員Bさん、所定労働6時間/日の契約
  • ケース1:1日7時間勤務(1時間所定超過 → 法定内残業)
    → 時給1,000円×1時間=1,000円(割増なし)
  • ケース2:1日9時間勤務(3時間所定超過。そのうち8~9時間目の1時間が法定外残業)
    → 法定内残業2時間:1,000円×2時間=2,000円
    → 法定外残業1時間:1,000円×1.25=1,250円
    → 合計残業代:3,250円

パート・アルバイトでも8時間/日・40時間/週を超えた部分は法定外残業となり25%増以上の割増賃金支払いが必要です。週の途中で所定外の出勤日が増えて週40時間を超えた場合も同様に時間外手当を払う必要があります。また深夜22時以降の勤務や法定休日の勤務についても、正社員と同じ割増率で支給しなければなりません。

注意点

同一労働同一賃金にも注意!
パートや有期雇用労働者の待遇は、正社員との不合理な差を設けてはいけないと法律で定められています(パートタイム・有期雇用労働法)。残業代についても、もし正社員だけに○%増の独自手当を支給しているような場合は不公平がないか見直す必要があります。

フレックスタイム制の残業代計算:清算期間と総労働時間

フレックスタイム制とは、1日の始業・終業時刻を労働者がある程度自由に決められる働き方の制度です。労働者と会社との間で清算期間(一定期間内に何時間働くかの枠)を定め、その総枠の中で日々の労働時間を調整します。清算期間は以前は1ヶ月以内とされていましたが、2019年の法改正により最長3ヶ月まで延長可能となりました。清算期間をひと月超にする場合は就業規則への定めと労使協定の労基署届出が必要です。

清算期間が1ヶ月以内の場合の残業代計算

清算期間が1ヶ月以内(例:毎月1日~月末)のフレックスタイム制では、その1ヶ月の総実労働時間が法定労働時間の総枠(週40時間×週数に相当する時間)を超えたかどうかで残業時間を判断します。具体的には、清算期間中の実労働時間から法定労働時間の総枠を引き、超えた分が残業時間となります。この超過時間に対して法定外残業の割増賃金(25%~)を支払います。

例:清算期間1ヶ月(4月)で法定労働時間総枠が160時間の場合 – 実際の総労働時間が168時間だった
168時間 – 160時間 = 8時間(←残業時間)
この8時間分に対して通常の残業と同様に25%割増の残業代を支払います。

逆に言えば、清算期間内で法定内に収まっていれば日によって8時間を超えて働いた日があってもその分の残業代支払いは不要です。フレックス制では日による労働時間の偏りをならし、期間トータルで法定時間内なら残業なしとみなせる仕組みになっています。ただし後述のとおり清算期間が長い場合には別途ルールがあります。

清算期間が1ヶ月を超える場合の残業代計算

清算期間を2ヶ月・3ヶ月といった複数月に設定する場合は、残業時間の算出方法が少し複雑になります。具体的には以下2つの残業時間を算出し、それらを合算して清算期間中の残業時間とします。

各月ごとの「週平均50時間超」残業時間

清算期間に含まれる各暦月について、その月の実労働時間が「週平均50時間相当」を超えた場合、その超過時間が残業時間となります。週平均50時間相当の月間時間は月の日数によって異なり、計算式は「50(時間)×(その月の暦日数÷7)」で求めます。例えば暦日数30日の月なら約214時間が基準です。その月の実労働時間が214時間を超えていれば、超えた分(例えば220時間なら6時間超過)が残業時間①となります。この時間については清算期間途中でも割増賃金の支払いが必要です(極端に長時間労働した月がある場合、期間終了まで待たず支給させる趣旨です)。

清算期間全体の「総枠超過」残業時間

清算期間全体の実労働時間が、その期間の法定労働時間総枠(週40h相当×期間の週数)を超えた場合、その超過分を残業時間②とします。まず清算期間の実労働時間総和から法定総枠を差し引き、さらに上記①で算出した時間があればそれも差し引きます。残った時間が②です(既に月単位で50時間超過として扱った時間を二重計上しないようにするため)。②に該当する残業代は清算期間末に精算・支払いします。

最後に①と②の時間を合計したものが清算期間中の残業時間の総計となります。この合計時間に応じた割増残業代を支払えばよいことになります。

具体例で確認

清算期間3ヶ月(4~6月)のフレックスタイム制で、3ヶ月合計実労働時間550時間、法定総枠520時間だったケースを考えます。各月の実労働は4月220h・5月180h・6月150hだったとします。

  • Step1.各月ごとに週平均50時間超を算出:4月の基準214.2hに対し220h労働 → 約5.8時間超過。5月・6月は基準超えなし(0時間)。→ ①=5.8時間(4月分の残業時間)
  • Step2.3ヶ月全体で総枠超過を算出:550h – 520h = 30h超過。しかしこの30hには上記①の5.8hが含まれているため、それを差し引きします。30h – 5.8h = 24.2時間が②となります。
  • Step3.残業時間①+②を合計:5.8h + 24.2h = 30時間(←当清算期間の残業時間)。4月分に5.8時間、6月分に24.2時間の残業代を計上し支払います。

上記のように、清算期間が長いフレックスタイム制では残業代計算のルールが通常とは大きく異なります。特に月単位で長時間労働させて翌月に調整するような働かせ方をすると、想定外の残業代支給が発生したり、労働時間の上限規制を超えてしまう恐れもあるため注意が必要です。

注意点

清算期間が長い場合の注意!
清算期間が1ヶ月を超えるフレックスでは、各月ごとの労働が過度に偏らないようにする仕組みとして「週平均50時間超え」の規制が設けられています。このため、期間トータルでは法定内でも、ある月に働きすぎるとその月のうちに残業代が発生します。また、フレックス制でも36協定は必要であり、清算期間を1ヶ月超にする場合は協定届にその旨を記載して労基署へ届け出る義務があります。

深夜・休日労働の割増率と残業代の計算

残業代の計算に関連して、深夜労働や休日労働に対する割増賃金についても押さえておきましょう。深夜や休日の労働は時間外労働と同様、労働基準法37条で通常賃金の◯割増以上と割増率が定められています。以下、深夜と休日それぞれの割増率と計算方法、注意点を解説します。

深夜労働の割増率と計算方法

深夜労働とは、原則として午後10時~午前5時の時間帯の労働を指します(労基法37条)。この時間帯に労働させた場合、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払わなければならないと法律で定められています。深夜割増は、たとえ法定内労働であっても時間帯が該当すれば発生します。たとえば22時以降の勤務はそれだけで深夜手当25%増しの対象です。

深夜労働が他の残業と重なった場合は割増率が合算されます。具体的には、22時以降の法定外残業は25%(時間外)+25%(深夜)=50%以上の割増率となり、22時以降の休日労働なら35%+25%=60%以上となります。この重複する割増については既に前章でも触れましたが、深夜割増はあくまで「時間帯」に対する追加賃金であり、時間外や休日割増と別立てで計算する点に注意しましょう。

計算例:深夜残業の残業代

時給1,200円の従業員Cさんが22時~23時まで法定外残業をした場合
通常時給1,200円 × 1.50(時間外25%+深夜25%) = 1,800円(1時間あたり)
仮にこれが法定内残業(所定超過だが8時間以内)であれば、深夜割増分の25%のみで1,500円となります。

深夜割増賃金は管理監督者など残業代が免除される立場の労働者にも適用される点も覚えておきましょう。管理職であっても22~5時の勤務には深夜手当を支払わねばならないので、該当者がいる場合は計算漏れしないよう注意が必要です。

休日労働の割増率と計算方法

休日労働とは、法定休日(法律上与えねばならない休日)に労働させることを指します。先述のとおり法定休日は毎週少なくとも1日(あるいは4週4日)ですので、通常は週1回の所定休日のうちどれか1日が法定休日として扱われます。日曜日を法定休日に定めている会社が多いですが、業種によっては別の曜日を法定休日にしているケースもあります。

法定休日に労働させた場合、その労働は時間数に関わらず法定外の休日労働となり、通常賃金の35%以上の割増賃金を支払う必要があります。これを一般に休日出勤手当(休日労働割増賃金)と呼びます。例えば日曜(法定休日)に8時間勤務した場合、その8時間分にそれぞれ35%増しの賃金を支払わねばなりません。時給1,500円の人なら1,500円×1.35=2,025円を8時間分支給します。

所定休日(会社が定めた休日)に出勤した場合、それが法定休日でなければ割増率は異なります。法定休日ではない休日労働には35%増の法律上の割増義務はありません。週の労働時間が結果的に40時間を超えれば時間外25%の対象になりますし、40時間以内なら通常賃金の支払いで足ります。例えば週休2日制で土日休み(法定休日=日曜)の会社で、土曜に出勤した場合は、その週の総労働時間が40時間を超えない範囲では割増なし、週40時間超えた分について25%の割増となります(時間外労働として扱う)。一方日曜に出勤した場合は即法定休日労働となり、週40時間内外に関係なく35%増しが必要です。

注意点

振替休日と代休の違い:業務都合で法定休日に出勤させる場合、他の労働日に休みを振り替えて法定休日を移動させれば、その出勤日は休日労働とみなされなくなります(振替休日)。一方、振替を行わず休日出勤させた後で別日に休ませるのは代休と呼ばれますが、代休を与えても休日労働の割増賃金支払い義務は消えません。代休制度は割増賃金の代わりにはなりませんので注意してください。

計算例:休日労働の残業代

月~金に各8時間ずつ働いた社員Dさん(時給制)が日曜日に6時間勤務した場合
平日の時点で週40時間労働済み。日曜は会社の法定休日だった。
→ 日曜6時間は休日労働にあたり35%増で支給。時給1,200円なら1,200×1.35=1,620円を6時間分支給。さらに、この日曜労働の一部が22時以降に及べば、その時間は1,620円×1.25=2,025円(60%増)となる。

36協定と残業時間の上限規制:企業と労働者の義務

36協定(サブロク協定)とは何か

36協定とは、労働基準法第36条に基づいて会社と労働者代表との間で締結される、時間外労働・休日労働に関する協定のことです。法定労働時間を超えて残業させたり法定休日に出勤させたりするには、この36協定を結んで所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です。逆に言えば、36協定のない会社で社員に残業や休日出勤をさせると労基法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金といった罰則が科される可能性があります。

36協定では、残業や休日労働をさせることができる上限時間を取り決めます。従来、この上限時間は厚労省令のガイドラインに過ぎませんでしたが、2019年の法改正で残業時間の上限規制が法定化されました。企業は協定で定めた範囲内でしか従業員を残業させることができず、上限を超えれば罰則対象となります。労務管理上は、36協定で定めた上限時間を就業規則などに明示し、その範囲内で残業命令を出す運用が求められます。

残業時間の上限規制と特別条項

現在の法律では、時間外労働(法定外残業)の上限は原則として月45時間・年360時間までと定められています。36協定を締結すればこの範囲内で残業させることが可能ですが、これを超える残業は原則禁止です。違反した企業には是正勧告や罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)があり得ます。

ただし業務の繁忙や臨時の事情に対応するため、特別条項付き36協定を結ぶことで月45時間・年360時間を一時的に超える残業を認めることもできます。しかしその場合でも絶対に超えられない「限度」が法律で決まっています。

時間外労働の上限(原則と特例)

  • 原則上限:月45時間、年360時間(法定休日労働を除く)。
    ※法定休日の労働はこの45時間/月・360時間/年には含めませんが、後述の「月100時間未満」「複数月平均80時間以内」には含めて考えます。
  • 特別条項付き36協定を結んだ場合の限度:
    ・年間720時間以内(時間外労働のみ。休日労働は含めず集計)
    ・単月100時間未満(休日労働を含む合計。100時間ちょうども不可)
    ・2~6ヶ月平均80時間以内(任意の2~6ヶ月間の平均で。休日労働含む)
    ・月45時間超の残業は年6回まで(45時間を超える月が年7回以上あってはならない)

これらの上限は大企業では2019年4月から、中小企業でも2020年4月から適用されています(建設業等一部業種は猶予期間を経て2024年4月から適用)。つまり現在は原則どの企業も上記上限を守らなければならないということです。

具体例で違反となるケース

「残業と休日労働あわせて月100時間未満」に対し、もしある月に休日出勤含め105時間の時間外労働をさせた場合はこの条件に抵触し法違反となります。たとえ労使合意があっても月100時間、複数月平均80時間、年720時間のラインは絶対に超えられません。

企業の義務

36協定を締結・届出するのはもちろん、その範囲内で労働時間を管理することが企業(使用者)の責任です。適切に残業時間をモニタリングし、上限に近づいたら業務量の調整や人員配置の見直しを行うなどして労働時間をコントロールする義務があります。違反すれば前述の罰則に加え企業イメージの失墜にもつながりかねません。

労働者の義務・権利

労働者側にも、36協定で定められた手続に則って残業する(例えば事前申請や上長許可を得る)ことが求められます。勝手な「サービス残業」や黙示の残業を常態化させるのは双方にとってリスクです。もし36協定のない違法な残業命令や、上限を超える残業の強要があった場合、労働者は拒否することも正当化されます(労基法違反の業務命令には従う必要がありません)。労働者は自らの健康を守るためにも、自分の残業時間を把握し、異常な長時間労働となっている場合は産業医面談等の措置を申請する権利もあります。

ポイント

時間外労働の上限規制は労働時間削減(働き方改革)の要として導入されたものです。企業文化として「限度を超えて働かせない」「限度を超えて働かない」意識を共有し、36協定の範囲内で生産性を上げる取り組みが重要です。

よくある質問(FAQ):未払い残業代・管理職の扱いなど

Q. 未払い残業代は過去どれくらいまで請求できる?

A. 現在、未払い残業代を含む賃金の請求権の時効は3年間です(2020年の法改正で2年から延長されました。当面3年で、将来的には5年への延長も検討されています)。そのため、例えば「2年前から残業代が適切に支払われていなかった」という場合、過去3年分まで遡って請求可能です。会社側は支払い漏れが判明したら速やかに清算する必要があります。

未払い残業代の請求方法としては、本人が会社に直接申告して支払いを求めるほか、労働基準監督署に申告して是正指導してもらう、労働審判や訴訟で請求する、といった手段があります。裁判になった場合、悪質な未払いには付加金(未払い額と同額のペナルティ)の支払いが命じられることもあります。いずれにせよ会社にとって大きなリスクですので、日頃から適切な時間管理と賃金計算を行い、未払いを発生させないことが肝心です。

ワンポイント!

2020年の民法改正で債権の消滅時効が原則5年に統一された影響で、残業代請求の時効も将来的に5年へ延長される可能性があります。現行法では当面3年とされていますが、企業は5年分の未払いが発生するリスクも想定して、適切な賃金台帳の管理や引当を行うと良いでしょう。

Q. 「管理職」は残業代が出ないって本当?

A. 「管理職だから残業代なし」は一概には言えません。労基法では管理監督者(経営者と一体的立場の管理職)について労働時間や残業規制を適用除外としていますが、肩書きが管理職というだけでは管理監督者とはみなされません。実態として労働時間の裁量があり、経営上重要な権限を持ち、待遇も優遇されているようなごく一部の管理層のみがこれに当たります。一般的な課長・係長クラスは法律上は管理監督者ではなく、残業代支払いが必要な労働者です。

例えば大阪労働局の見解でも、「一般的に係長は出退勤が自由な管理監督者ではないため、時間外手当の支給が必要と思われる」とされています。実際の裁判例でも、名ばかり管理職(店長など)の残業代未払いが違法と判断され支払いを命じられるケースが多数あります。管理職という肩書きだけで残業代をゼロにすることはできないと認識しましょう。

なお、労基法上の管理監督者に該当する場合は時間外・休日労働について割増賃金は不要ですが、深夜労働の割増(25%)は管理監督者であっても適用除外されません。真の管理監督者についても、22時~翌5時の深夜勤務分の手当は支払う必要があります。この点も併せて注意してください。

Q. 残業時間の端数を切り捨て計算しているけど問題ない?

A. 端数の切り捨てにより未払いが生じている場合は問題があります。労働時間管理上、1ヶ月の残業合計時間において30分未満を切り捨て・30分以上を切り上げる程度の端数処理は認められていますが、毎日15分未満を切り捨てる等の一方的な切り捨て計算は違法です。例えば「残業は1日単位で30分未満切り捨て」という会社だと、毎日20分のサービス残業が発生してしまい明確に未払い賃金となります。

原則は残業代は1分単位で計算・支払いすることです。それが難しい場合でも切り上げを組み合わせるなどして、少なくとも労働者に不利益な切り捨てをしない運用にする必要があります。実務上は、タイムカード記録を15分単位などに丸める場合でも常に繰り上げ処理をするか、月集計で調整するなどして未払いが出ないようにしてください。

もし過去に切り捨て端数分の未払い残業代があれば、速やかに精算して支払うことをお勧めします。少額でも積み重なれば大きな金額になり得ますし、発覚時の信用失墜リスクもあります。

Q. 定額残業代を支給すれば残業代の支払い義務はなくなる?

A: いいえ、定額残業代制度でも実労働に応じた精算が必要です。例えば「月30時間分の残業代として○円を固定支給」という契約でも、30時間を超えたらその超過分は別途支払わねばなりません。また定額残業代が何時間分のどの賃金を指すかを明示しないと無効と判断されます。固定額を払っているからといって、実際の残業がそれを下回るのに差額を返さないのも問題です。定額残業制は適切な契約と運用をして初めて有効になる点に注意しましょう。

Q. 時間外労働命令を社員が拒否することはできる?

A: 業務上の必要性と36協定範囲内であれば基本的に拒否は認められません。就業規則等に時間外労働の指示に従う義務が定められているケースが多く、その範囲での命令は正当です。ただし36協定がない残業命令や協定上限を超える残業の強要は違法なので、従業員は拒否できます。また、どうしても家庭の事情等で残業できない場合は、会社と話し合って配慮を求めることも実務上は可能でしょう。

Q. 裁量労働制だと残業代は一切発生しないの?

A: 一定の深夜・休日手当を除き発生しません。専門業務型や企画業務型の裁量労働制では、あらかじめみなし労働時間で働いたものとみなされるため、原則として残業代の支払いは不要です。ただし深夜手当(22時~5時の割増)や法定休日手当は裁量労働制でも適用されますので、該当する場合は支給が必要です。また実際の労働時間が著しく長くなり過ぎた場合、労使協定で定める健康確保措置などが求められます。

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